遺産分割が終わっていない不動産は売れる?手続きと注意点を解説

ポイント

【結論】「遺産分割が終わっていない不動産」は、そのままでは基本売れない|ただし、手続きを踏めば売却して現金で分けることは十分可能

相続で引き継いだ不動産について、

  • 「相続人同士の話し合い(遺産分割)がまだ終わっていない」
  • 「名義は亡くなった親のまま」
  • 「売って現金で分けたいが、誰の名義にすべきかでもめている」

という状況はとても多いです。

結論から言うと、

  • 遺産分割が終わっていない不動産は、原則として「相続人の誰か1人の判断」で売れません。
  • ただし、
    • 相続人全員の合意をまとめて「共有名義で売る」
    • 遺産分割協議で「誰が不動産を取得し、誰にいくら渡すか」を決めてから売る
      といった手順を踏めば、

不動産を売却 → 代金を現金で分ける

ことは十分現実的に可能です。

ポイントは、

  1. 「相続財産のまま(被相続人名義)」である今の状態を正しく理解する
  2. 相続人全員の同意なく勝手に売ると、契約自体が危うくなることを知る
  3. 売却をゴールにするなら、「遺産分割」と「売却」をセットでスケジュールする

ことです。

以下で、

  • 遺産分割が終わっていない不動産が「そのまま売れない」理由
  • 売却を前提とした現実的な進め方(手続きの流れ)
  • もめている場合の対処法
  • 実務での注意点・よくある落とし穴

を整理して解説します。


目次

なぜ「遺産分割が終わっていない不動産」はそのまま売れないのか

相続開始直後の不動産は「相続人全員の共有財産」

相続が発生すると(被相続人が亡くなると)、
不動産はすぐには誰か1人のものになるのではなく、

相続人全員の共有の相続財産(遺産)

という扱いになります。

  • 登記簿上は「亡くなった人の名義」のままでも、
  • 法律上は「相続人全員が共同で持っている状態」

と考えられます。

売却には「相続人全員の同意」が原則必要

この状態の不動産を売却するには、

  • 不動産そのものが「誰のものか」が決まっていないため、
  • 原則として相続人全員の同意と協力が必要です。

具体的には、

  • 相続人全員が売買契約書に署名・押印する
    もしくは
  • 遺産分割協議で「誰がその不動産を相続するか」を決めて、
    一旦その人の名義にしてから、その人が売る

といういずれかのパターンになります。

一部の相続人だけで勝手に売ると、

  • 後から他の相続人から「無効だ」「損害賠償だ」と争われる
  • 買主にとっても「権利が安定しない危険な取引」になってしまう

ため、不動産会社や司法書士も基本的には応じません。


売却を前提にした「遺産分割+名義変更+売却」の基本パターン

売却したい方向けに、実務上よく使われるのは次の2パターンです。

  1. 先に遺産分割協議で「誰が不動産を相続するか」を決め、その人が売る
  2. 遺産分割協議で「売って現金で分ける」と決め、相続人全員で売る

順番に見ていきます。

パターン① 誰か1人が相続してから、その人が売る

【流れイメージ】

  1. 相続人全員で遺産分割協議
    → 「不動産は長男が相続、その代わり他の兄弟には現金を渡す」などを決める
  2. 遺産分割協議書を作成し、全員が署名・押印
  3. その内容に基づいて、
    被相続人名義 → 長男名義 へ相続登記
  4. 名義人となった長男が、不動産を売却
    → 売却代金から、他の相続人への支払い等を行う

【メリット】

  • 売買契約上の「売主」が1人(または少数)になるため、手続きがシンプル
  • 買主・金融機関にとっても分かりやすい
  • 売却のタイミングや条件交渉を、名義人中心に進めやすい

【デメリット・注意点】

  • 「誰が相続するか」の話し合いで揉めると進まない
  • 相続で不動産を取得した人に「譲渡所得税」が発生(将来の売却時)する可能性
    → 特例(相続税の一部を取得費に加算等)も絡むため税理士への相談が安全

パターン② 「売って分ける」ことを前提に、相続人全員で売る

【流れイメージ】

  1. 遺産分割協議で
    「不動産は売却し、売却代金から費用を引いた残りを相続人で分ける」
    と取り決める
  2. 遺産分割協議書に、その内容を明記(持分割合等も決める)
  3. 相続登記で、
    被相続人名義 → 相続人全員の共有名義
    に変えておく(省略し、同時決済で進めるケースもあり)
  4. 売買契約の「売主」として、相続人全員が契約書に署名・押印
  5. 決済日に、
    • ローン残債の返済(あれば)
    • 仲介手数料等支払い
    • 残額を相続人で分配

【メリット】

  • 「誰か1人が不動産をもらうのは不公平」という感情が出にくい
  • 最初から「現金で分ける前提」なので、分け方の話をしやすい
  • 売却価格が出てから、実際の分配額を最終確定できる

【デメリット・注意点】

  • 相続人全員のハンコ・協力が最後まで必要
    → 1人でも反対すると売れない
  • 相続人同士の関係が悪いと、実務がとても進みにくい
  • 売却までの間に誰かが亡くなったりすると、
    新たな相続が発生してさらに複雑になることも

遺産分割前〜売却までの全体の流れ(手続きのステップ)

ここからは、「売却して現金で分ける」ことをゴールにした
標準的な流れを、ステップごとに整理します。

ステップ① 相続人と相続財産の範囲を確定する

まずは、法律上の手続きの基本からです。

  • 誰が相続人か(戸籍で確認)
    → 配偶者・子、子がいなければ親・兄弟姉妹など
  • 相続財産には何があるか
    → 不動産・預貯金・株・保険金・借金 など

不動産だけでなく、全体のバランスを把握することが重要です。
「不動産だけで話し合おうとする」と、他の財産との公平感のズレが出がちです。

ステップ② 売るか/誰かが住み続けるかの方向性を決める

  • 誰かが住み続けたい人はいるか
  • 全員が売却・現金分割に賛成なのか
  • 住み続ける場合、その人にどこまで負担能力があるか(ローン・維持費など)

ここを曖昧にしたまま
「とりあえず査定だけ…」と進めると、
後で相続人同士の対立が深くなることがあります。

ステップ③ 不動産会社に査定を依頼し、「売れそうな価格」を知る

  • 仲介で売却した場合の想定成約価格
  • 売却にかかりそうな期間
  • 不動産会社の買取を利用した場合の価格(スピード重視のシナリオ)

を出してもらい、

「売ったら、手元にいくらくらい残りそうか」

のイメージを数字で共有します。

この数字があると、

  • 「売るか/誰かが取得するか」
  • 「どのくらいなら譲歩できるか」

の話し合いがしやすくなります。

ステップ④ 遺産分割協議で「分け方」を決める

  • 売却前提にするか
  • 誰かが不動産を取得し、他の相続人に代償金(現金)を払うのか
  • 持分割合はどうするか(法定相続分どおりか、調整するか)

などを話し合い、全員の合意ができたら「遺産分割協議書」を作成します。

この協議書には、

  • 不動産の所在・内容
  • 誰が取得するか/あるいは売却するか
  • 売却した場合の代金の分け方(%や金額)

などを明記しておきます。

司法書士・弁護士にチェックしてもらうと安心です。

ステップ⑤ 相続登記(名義変更)と売却手続き

2024年から相続登記は義務化されており、
相続を知った日から3年以内に登記が必要です。

売却を絡める場合は、一般的に、

  • 先に相続登記を済ませてから売る
     (被相続人 → 相続人 or 相続人全員の共有)
  • もしくは、売却と相続登記を同時決済の中でまとめて行う

いずれかの形になります。
ここは司法書士・不動産会社と相談してスキームを組みます。

そのうえで、

  • 売出し開始(広告・内覧対応)
  • 買主決定・売買契約
  • 決済・引渡し

という通常の売却フローに入っていきます。


相続人同士の意見が合わないときの対処法

パターン① 「売りたい人」と「売りたくない人」がいる

よくあるパターンです。

  • 売りたい側:維持費・管理の負担、現金化したい事情が強い
  • 売りたくない側:思い入れ、住まいとして使いたい、将来の利用希望など

この場合、

  • 売りたくない側が「その不動産を相続し、他の相続人に代償金を払う」
  • あるいは、「しばらく賃貸に出して収益を分ける」

といった案も含めて、選択肢の幅を広げて話すことが大事です。

どうしても話し合いがまとまらなければ、

  • 家事調停(家庭裁判所での調停)
  • 審判(裁判所による分け方の決定)

という法的手続きを検討することになります。

パターン② 連絡の取れない相続人・音信不通者がいる

  • 海外在住で連絡がつかない
  • 住民票上の住所から転居して所在不明
  • 関係が途絶えて何十年も会っていない

といったケースでは、

  • 弁護士・司法書士に依頼して所在調査を行う
  • 必要に応じて、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる

といった法的な手続きが必要になることもあります。

この場合、手間も期間もかかるため、

「すぐには売れない前提」で、時間軸も含めて計画を立てること

が重要です。


遺産分割前の不動産売却で「やってはいけない」こと

NG① 一部の相続人だけで勝手に売る

  • 代表者のつもりで1人だけが売却契約に署名・押印
  • 他の相続人には「あとで話すから」と言って進めてしまう

これは、非常に危険です。

  • 他の相続人から契約無効・損害賠償を主張される可能性
  • 買主からの信頼も失い、トラブルに発展しやすい

ため、不動産会社・司法書士も通常は対応しません。

NG② 遺産分割がまとまる前に「価格の約束」だけしてしまう

  • 相続人の1人が、買主候補と勝手に「◯◯円なら売る」と握ってしまう
  • 他の相続人はその価格に納得していない

この状態で進めると、

  • 遺産分割協議の場で「その価格自体が争点」になり、話がこじれる
  • 結局売却が流れて、関係だけ悪くなる

というパターンが多いです。

NG③ 相続税・譲渡所得税をまったく考えずに売却する

相続不動産の売却では、

  • 相続税を支払っているかどうか
  • 相続税の一部を取得費に加算できる特例を使えるか
  • 居住用財産の3,000万円特別控除などを使えるか

といった税金の問題が非常に重要です。

「急いで安く売ってしまったら、
税金を考えたら手取りがほとんど残らなかった」というケースもあるため、

売る前に、一度は税理士や税務に詳しい専門家に相談すること

を強くおすすめします。


専門家コメント

ホームワーク株式会社 代表取締役(相続不動産・遺産分割サポート担当)

  • 相続不動産の売却・活用相談を年間多数対応
  • 司法書士・税理士・弁護士と連携した「相続+売却」ワンストップ支援

コメント

「『遺産分割が終わっていないから売れないのでは?』というご相談はとても多いです。

実務的には、

  • 遺産分割が終わっていない不動産を、
    相続人の一部だけの判断で売ることはできませんが、
  • 『売却して現金で分ける』ことを全員で合意できれば、
    手続きを踏んで問題なく売却することは十分可能です。

大事なのは、

  1. 相続人全員で“方向性”を共有すること(売るのか、誰かが住むのか)
  2. 不動産の「現実的な価格」と「売却後の手取り」を数字で見てから話すこと
  3. 遺産分割・相続登記・売却を、司法書士・税理士・不動産会社と連携して進めること

です。

『家族でもめるのが怖い』『何から話し出せばいいか分からない』という場合でも、
第三者が間に入ることで、意外と冷静に話が進むことも多いです。

まずは、

  • 相続人は誰か
  • 不動産の場所とおおよその評価
  • 売りたい人/残したい人がそれぞれどう考えているか

といったことを一緒に整理するところから始めていければと思います。」


よくある質問(FAQ)

Q1. 遺産分割が終わっていない不動産は、まったく売れないのでしょうか?
A. 原則として、相続人の一部だけで勝手に売ることはできませんが、
相続人全員の合意があれば、

  • 「誰か1人が相続して売る」
  • 「全員の共有名義で売る」
    といった形で、売却して現金で分けることは十分可能です。

Q2. 相続人の1人が遠方にいても、売却はできますか?
A. 可能です。

  • 書類の郵送
  • 委任状・代理人
    などを使って手続きすることが一般的です。
    ただし、署名・押印・本人確認書類などのやり取りに時間がかかるため、
    スケジュールに余裕を持つ必要があります。

Q3. 相続人の1人が「反対」と言っている場合、それでも売れますか?
A. 任意の話し合い(遺産分割協議)では、原則として全員の合意が必要です。
それでも合意に至らない場合は、家庭裁判所での調停・審判を通じて
分け方を決めることになります。
裁判所の関与なしに一部だけで売ってしまうのは危険です。

Q4. 遺産分割協議書は自分たちで作っても大丈夫ですか?
A. 形式上は可能ですが、

  • 書き方のミス
  • 抜け漏れ
    があると、後の登記や税務で問題になりかねません。
    特に不動産が絡む場合は、司法書士や弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。

Q5. 被相続人名義のまま売却し、決済と同時に相続登記することはできますか?
A. スキームとして行われることはありますが、

  • 相続人全員の協力
  • 司法書士による綿密な手続き設計
    が必要です。
    通常は、相続登記を済ませてから売る方が分かりやすく安全です。

Q6. 相続税の申告前に売るべきか、申告後に売るべきか迷っています。
A. 相続税の納税資金が不足している場合は、
申告期限(通常は相続開始から10ヶ月以内)までに
売却または売却の目処をつける必要があるケースも多いです。
相続税評価と実勢価格のギャップもあるため、
税理士と不動産会社の両方に相談してスケジュールを組むのが安全です。

Q7. 相続した家に誰も住んでいません。それでも急いで売ったほうがいいですか?
A. 空き家は、

  • 固定資産税
  • 維持管理費
  • 老朽化・近隣トラブルリスク
    などの負担が増えていきます。
    利用予定がないなら、
    「売却」「賃貸」「一部利用」などの選択肢を早めに検討する価値は高いです。

Q8. 遺産分割協議がまとまらないまま、相続から何年も経ってしまいました。今からでも売れますか?
A. 可能です。
ただし、

  • 相続人の高齢化・死亡による二次相続
  • 相続人が増えて話し合いがさらに難しくなる
    といった要素が加わってくるため、
    早めに専門家を交えて整理を始めることを強くおすすめします。

Q9. 不動産会社は、遺産分割や相続登記のことも相談に乗ってくれますか?
A. 多くの不動産会社は、

  • 相続に強い司法書士・税理士の紹介
  • 売却価格の試算
  • 相続人間の話し合いの「材料」の提供
    などでサポートしてくれます。
    ただし、遺産分割の「法律判断」や代理はできないため、
    必要に応じて士業と連携して進める形になります。

Q10. まず何から始めればよいですか?
A.

  1. 相続人が誰か(戸籍ベースで)を確認する
  2. 不動産の所在地・種類・おおよその価格感を整理する
  3. 「売るか/誰かが使うか」の希望を家族でざっくり話し合う
  4. そのうえで、不動産会社と司法書士に「売却を前提とした遺産分割」の相談をする

という流れがおすすめです。
「売るかどうかまだ決めていない」という段階でも、
選択肢と数字を見てから判断すれば問題ありません。

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